驚いたことに、
オリンピックがはじまってた。
ソフトボールの上野選手がまだ現役で投げてた。
解任と辞任で忙しそうだった。
開会式。
長男が、
「いちもつ模様って何?」
って聞いてきた。
信州から出てきて、
東京の本郷で仕立て屋を始めたのは戦前。
場所柄、学生服で商売は安定した。
妻との間に2人の男の子を儲け、
隠居する時、
仕立て屋の土地を半分にして、
兄は仕立て屋を継ぎ、
弟の方は蕎麦屋を始めた。
はじめ、職人を雇って始めた弟は、
見様見真似で出汁の取り方、
そばの打ち方を覚え、
ひとりで店をやっていけるまでになる。
店の出前先だった東京大学で事務をやっていた後の妻には、
出前の注文のほかに、
いつも果物などのサービスをして口説き落とし、
二人の女の子に恵まれる。
弟は今、85歳。
まだまだ現役で働いていたが、
このコロナ禍で客がぱたんと来なくなる。
もう店を閉めてしまおうかとも思ったが、
下の娘が家族のある埼玉から始発で店を手伝いに来てくれるので、今のところなんとか続けていけている。
妻は五年前に他界した。
今日は新盆なので送り火をしたいが、
今にも降りそうな雲行きなので、
少し様子を見ている。
と、この前お昼に入った蕎麦屋のおばちゃんが、
羊羹とプリンを食べながら話してくれた。
おばちゃんは埼玉に住んでいる下の娘。
夜、僕が晩酌をしている横で、
長男と次男が宿題をしていた。
「じゃあさ、自分が一番上手いひらがな書いて、どっちが上手か競争しない?」
と次男提案。
提案に乗る長男。
「やべっ、おれめっちゃ下手だ」
「絶対、おれの方が下手だし」
「いや、ゼッテーおれの方が下手だし」
「おれのまじやばいって」
お互いに言い訳をしあってから字を見せ合う。
長男「お」
次男「し」
僕がカメラマンを始めてから、
ずっと仕事もらってきたアパレルのブランドで働いていたガンちゃんが転職する。
今日が最後の撮影だった。
仕事じゃなくても、
いつもガンちゃんと話しに行ってた。
ガンちゃんのお父さんは漁師で、
お袋の味はマドレーヌ。
別れ際、ガンちゃんが握手してきた。
握手は寂しい。
妻 「もう死ぬ。」
子育てと家事に疲れてつぶやいた。
次の日。
三男「ママ、まだ生きてるじゃん。」
と言う。