大丈夫ですか?
毎年この季節になると、A塚さんから電話がかかってくる。
A塚さんは、自分1人で出版社をされていて、面白い本を出されている。
その傍ら、編集、ライターの仕事もしていて、
一年に一度この時期に映画関係の仕事に呼んでくれる。
A塚さんはいつも電話で、
「加瀬さん、芸能人の撮影は大丈夫ですか?」
と聞いてくる。
この大丈夫ですか?と言うのは、
Can you ~? と言う意味です。
それで僕は、
「大丈夫ですよ。(Yes I can.)」
と答える。
前年に芸能人の撮影をしても、やっぱり次の年も「芸能人は大丈夫ですか?」と聞いてくる。
今となっては、A塚さんがこう聞いてくるのを楽しみにしている。
でも前に一度だけ、
大丈夫ですか?が、Do you mind? の時があった。
「パッキャオの撮影なんですが、撮れるかもしれませんが、撮れないかもしれないんですけど大丈夫ですか?」と聞いてきた。
僕は「大丈夫ですよ。(No I don't)」と答えた。
どういう仕事だったかと言うと、
代々木公園であるフィリピンフェスティバルに、フィリピンの英雄パッキャオがくる。アポも何もないがサイン会があるらしく、その列に並んで写真も撮ってしまうというワイルドな計画だった。
当日、A塚さんと僕は、長い間列に並んで待っていたが、
僕らの番のだいぶ前に、パッキャオは疲れたのか、忙しいのか、なんのアナウンスもなく、さっさと裏口から帰ってしまった。
いきなりの事で驚いたが、A塚さんは「さっきステージにいたときのパッキャオ撮れてるから、大丈夫ですよね?」と聞いてきた。
英語にすると、Is the photo ok~? でしょうか?
撮影の後、よくビールを一杯ご馳走になる。
「加瀬さんの日記に僕、貧乏キャラかなんかで出してもいいですよ」
とビールを飲みながら言ってくれるA塚さんだけど、
ビールの勘定を払うA塚さんの財布が、あまり見た事ないぐらいぼろっぼろなので「大丈夫ですか?(Are you ok?)」と思ってしまう。