僕は電車の最後尾に乗るのが好きだ。
横須賀線の最後尾には手すりのようなものが付いていて、座ると少しけつが痛いけど、それに腰掛けて本を読むとちょうどいい。
今日もそこで本を読んでいたら、
「扉閉まりまーす。駆け込み乗車はおやめください」
と、車内から聞こえたような気がした。
おかしいなと思ったけど、最後尾だけに車掌さんの声が聞こえやすいんんだろうと、また本を読みだした。
「次は戸塚、戸塚。藤沢、平塚方面はこちらでお乗り換えです」
と、やっぱり車内から聞こえたような気がして本から顔を上げると、ドアの側に立っていた中学生ぐらいの男の子と目があった。
その子は僕を見ながら
「間も無く戸塚に到着いたします。お忘れ物のないようお降り下さい。」
と言った。
僕は目があったままで気まずかったので、
「上手やなぁ」とその子に言った。
その子は表情一つ変えずにまだこっちを見てたけど、しばらくすると戸塚駅で降り、
何でか立ち去らずに駅のホームに立っていた。
戸塚駅で東海道線からの乗り換え客が横須賀線に乗り移ると、駅の発車メロディーが流れた。
「横須賀線、逗子行きの電車、間もなく発車致します。お近くの扉からご乗車ください。扉が閉まりまーす。」
とその子が言うと扉が閉まった。
ホームから電車が走り出した。
電車からその子が見えなくなるまで、
ずっと目があったままだった。