俺のイタリア

イタリアに行ったことのない男の日常

車掌さん

f:id:kaseken:20200114110358j:plain


僕は電車の最後尾に乗るのが好きだ。

横須賀線の最後尾には手すりのようなものが付いていて、座ると少しけつが痛いけど、それに腰掛けて本を読むとちょうどいい。

今日もそこで本を読んでいたら、

「扉閉まりまーす。駆け込み乗車はおやめください」

と、車内から聞こえたような気がした。

おかしいなと思ったけど、最後尾だけに車掌さんの声が聞こえやすいんんだろうと、また本を読みだした。

「次は戸塚、戸塚。藤沢、平塚方面はこちらでお乗り換えです」

と、やっぱり車内から聞こえたような気がして本から顔を上げると、ドアの側に立っていた中学生ぐらいの男の子と目があった。

その子は僕を見ながら

「間も無く戸塚に到着いたします。お忘れ物のないようお降り下さい。」

と言った。

僕は目があったままで気まずかったので、

「上手やなぁ」とその子に言った。

その子は表情一つ変えずにまだこっちを見てたけど、しばらくすると戸塚駅で降り、

何でか立ち去らずに駅のホームに立っていた。

戸塚駅東海道線からの乗り換え客が横須賀線に乗り移ると、駅の発車メロディーが流れた。

横須賀線、逗子行きの電車、間もなく発車致します。お近くの扉からご乗車ください。扉が閉まりまーす。」

とその子が言うと扉が閉まった。

ホームから電車が走り出した。

電車からその子が見えなくなるまで、

ずっと目があったままだった。