俺のイタリア

イタリアに行ったことのない男の日常

追悼A氏

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知らない人の写真展に行くと、

会場にアラーキーがいた。

内気な僕が柄にも無く、つかつかと近づいていって声を掛け、自分でも驚いたことに、荒木さんの前でスラスラと言葉が止まらなかった。

 

僕が初めて買った荒木さんの本が、写真集じゃ無くてエッセイ集「アラーキズム」だった事。

その本を友だちにも読ませて、篠山紀信アラーキーの伝説の対談を真似ていた事。

その後、テレビで初めて聞いた荒木さんの声が思いの外高くて、やっていたモノマネが全くデタラメだとわかった事。

荒木さんが来るという事だけで就職した東京の写真のスタジオで、雑誌「SMスナイパー」の撮影の時はいつも、読者モデルのアソコの毛を剃る為のお湯とタオルを用意するのが僕の担当だった事。

一度、大駱駝艦の撮影でスタジオに来た時、ペーパーの切り方ですごく怒られたが、いまだに何が正解だったのかわからない事。

荒木さんが、ふむふむと機嫌よく聴いてくれるので、僕は調子にのって話し続けた。

調子乗りついでにカメラを出して荒木さんを劇写しようと思ったら

「まだフイルムカメラ使ってるの?それじゃ今は写らないよ」

と荒木さんの甲高い声で言われたところで夢から目が覚めた。

 

僕は思った。

これは虫の知らせで、もしや荒木さん亡くなられたんじゃないかと。まだまだ夜が明けない暗闇の中、携帯で「アラーキー」と検索してみたけど、訃報のニュースが出てこなかったので、荒木さんは普通に元気に生きてはると思し、虫も僕にまでは教えてくれへんやろうとも思った。

まだ布団の中で興奮している。