蕎麦屋
信州から出てきて、
東京の本郷で仕立て屋を始めたのは戦前。
場所柄、学生服で商売は安定した。
妻との間に2人の男の子を儲け、
隠居する時、
仕立て屋の土地を半分にして、
兄は仕立て屋を継ぎ、
弟の方は蕎麦屋を始めた。
はじめ、職人を雇って始めた弟は、
見様見真似で出汁の取り方、
そばの打ち方を覚え、
ひとりで店をやっていけるまでになる。
店の出前先だった東京大学で事務をやっていた後の妻には、
出前の注文のほかに、
いつも果物などのサービスをして口説き落とし、
二人の女の子に恵まれる。
弟は今、85歳。
まだまだ現役で働いていたが、
このコロナ禍で客がぱたんと来なくなる。
もう店を閉めてしまおうかとも思ったが、
下の娘が家族のある埼玉から始発で店を手伝いに来てくれるので、今のところなんとか続けていけている。
妻は五年前に他界した。
今日は新盆なので送り火をしたいが、
今にも降りそうな雲行きなので、
少し様子を見ている。
と、この前お昼に入った蕎麦屋のおばちゃんが、
羊羹とプリンを食べながら話してくれた。
おばちゃんは埼玉に住んでいる下の娘。