少林寺への道
「どっか行きたいとこない?」と嫁さんは聞いてきた。
今まで貯めていた飛行機のマイルの期限が、翌日に切れてしまうのだ。
僕は「中国」と答えた。
前から少林寺のカンフーの写真が撮ってみたかったから。
嫁さんは、僕のために「羽田⇄北京」のチケットを取ってくれた。
でも、取った瞬間に自分が本当に行きたいのか分からなくなった。
僕の中のリトル健太郎に聞いてみると、「憂鬱」と答えた。
おかしい。僕はどちらかといえば、フットワークの軽い男だったはずだ。
旅行期間中に入った仕事も断った。
マイルも使った。
周りの人に少林寺行きを伝えた。
「カンフーです。えっ、僕変わってます?ただのアホなんです。」
と、ちょっと周りと違うという演出までした。
行くしかない。
渡航前日。
中国でのホテルやらなんやら(前日にやることか)を調べるために喫茶店へ行く道で携帯を落とした。
探し回った携帯は、その日の夕方に警察でバキバキに折れて見つかった。
チャンス。
「中国行きはキャンセルしたほうがいいかな?ほら携帯ないと連絡もつかへんと困るし」
と嫁さんに言い訳をして、キャンセルしてもらった。
気持ちがスッとした。
次の日、一人で熱海に行った。