東京新聞の読者から達筆で書かれたハガキをいただく。
達筆と文面から察するに、ご年配の女性のようだ。
というか、葉書をくれるのはいつもご年配の女性。
熟女バンザイ。
貼られたクリスマスのシールもいい。
うちの子を「我が家の孫のように思う」
と書いてあった。
うれしい。
はがきを眺めながら焼酎の水割りを呑んでいると、
「一枚のファンレターをあてに呑んでんの?」
と妻がひやかしてきた。
これ一枚で何杯も呑めるだけ、
熟女からのハガキは旨味成分が濃い。
仕事が途切れて一週間。
このままでいいのか、と思いはじめる。
二週間。
自分の人生はこれでいいのか、と考えはじめる。
三週間。
なにか答えがつかめそうな気がしはじめる。
と、仕事が入り、何もかも忘れてしまう。
頑張って働く。
週末。
「焼き肉のタレ」を探していたが見つからず、
しかも「焼肉」という言葉が出てこない。
間違っているのは分かってたがとりあえず
「『しゃぶしゃぶのタレ』どこ?」
と妻に聞いてみた。
妻は「ごまだれ?」と聞いてきた。
妥当な反応だ。
「違う違う、しゃぶしゃぶの、ほら、タレ」
と僕は「焼肉のタレ」を思い浮かべながら言ったところで、冷蔵庫のドレッシングらの棚に「焼肉のタレ」を発見。
「あった、あった」と僕が
「焼肉のタレ」を持って席に戻ると、
家族は変な顔をした。
朝起きてから、時間のかかるお米を入れた圧力鍋とお味噌汁の鍋を火かけるまでトイレに行くのを我慢している。
点火するやいなや、急いでトイレに駆け込む。
今朝もそうやって、一晩中膀胱に貯め込んだものをすりーっと出していると、
ばーんとトイレのドアが開き、
「こんなとこでなにしてんのよ」
って顔で妻が、
「大、小?」と聞く。
「小」
「まだ?」と横でイライラされても終わる気配なし。
「2階は?」
「こうちゃんが大してる。せっかく、きょうちゃんがトイレ行くって言ってるのに」
四男はトイレトレーニング中。
と言われても終わらない。
下っ腹に力を入れ押し出そうとしたけど、
いっこうに終わる気配なし。
午前中は家で仕事。
お昼に駅そばを食べにいこうと歩いてたら、
向こうのほうから、おっちゃんが大きな声で歌いながら自転車で近づいてきた。
「陽気やな」と思っていると、
おっちゃんは僕の5m前で歌うのをやめ、
5m後からまた歌い出した。
四男の今日のヒーローごっこ。
お気に入りの赤いパーカのフードを被り、
小さい両手は硬く握られる。
「おれぇはシュパイダーマン……。」
とぶつぶつと長い独り言をいい、
こっちにやってくると
「おまえもこい」
と言うのでついていく。
「よし、これをもってろ。これはチャックだ」
とカーテンを束ねるチェーンを僕に渡し、
何もない空間を指差し、
「ありぇはロボットだ。おまえもいってみろ」
と強要される。
「あれはロボットだ」と僕も言うと、
「いろはピンクだ」と教えてくれる。
「おれがやっちゅけてくる」と走り出して、
「やっ、やっ、やっ、」
と短い足が空中に蹴りを入れ、
「やっちゅけたぞ」と肩で息をして戻ってくる。
「おれぇはいえにかえりゅ」
とソファーで寝たフリをするので覗き込むと、
「おまえもいえにかえりぇ」
と薄目を開けて言う。