「阿部先生」
僕は経歴に「大阪ビジュアルアーツ写真学科夜間部卒」と書いてない。
書いてない割に、真面目に2年間通っていたクラスの担任が、
「阿部先生」だった。
とりあえず写真をすることだけは決めて学校に入ったが、
まだ何をどうしたいのか、全くわからない手探りの状態。
時代はガーリーフォト全盛で、カラフルなカラー写真を撮るクラスの女子も多かったが、
当時の大阪ビジュアルアーツは、モノクロの硬派な写真が主流の校風、
他にもれず、僕も大阪の街を撮りだした。
「才能はあるだろう」と、裏付けのない自信を持って始めたものの、
出来てくる写真は凡才そのもので、ぱんぱんだった自信もいつしかしぼみ、
すぐさま壁にぶつかった僕は、先生に相談した。
「なんか、同じような場所で、同じ写真撮ってるみたいで、よくわからないというか…」
と、よく分からない質問に、先生は少し考えて言った。
「加瀬くん、明日ここに学校ないかもしれへんよ」
若かった僕は、予想を大きく超えた答えに、
ぽかーんとしたが、「この人は信用していい」と思った。
学校も始まって半年も経つと、休日ロケの授業にくるのは、
僕と6つ年上の佐藤くんのふたりだけになった。
このロケの授業とは、各自好きに写真を撮って、集合場所の喫茶店に集まる、というもの。
「どう、撮れた?」先生は、ぱかぱかタバコを吸っていた。
フイルム一本しか撮れてないのに「3本ぐらいです」と水増しして答える。
先生はいつも20本以上撮ってた。
「どうやったらそんなに撮れんねん」
と思って、僕は先生の後をつけてみた。
天王寺から四天王寺に向かう商店街、
20m程先を歩く先生が、パチンコ屋のガラス戸に向かってシャッターをきると、
突如、くろぐろとした穴がぽっかりと空いた。
穴はみるみるうちに大きくなって、
あっという間に先生を頭から飲み込むと、跡形もなく消えた。
「あの穴、先生だけが行ける異次元の入り口とちゃうか?
ほんで、あっちからこっち、こっちからあっちって撮ってんねんや。
そうやないと、あんな写真撮られへんもん。せやせや」
とひとり納得した。
30年が経った。僕はまだ写真を続けている。
学生の時より、阿部先生の作品の面白さに圧倒されるのは、
僕も「違いのわかる大人になった」ということだろう。
また、何度見ても飽きないのは、超人的なスナップ力もさることながら、
「タイトルの簡潔さ」「一切テキストを入れない」でも分かるように、
写真がテーマやメッセージからいつも自由だからだ。
おかげで僕は、写真集にぽっかりあいた穴に頭を突っ込んで、
自分の目で人や街に出会うことができる。
集合場所の喫茶店で、阿部先生と会えるのを楽しみに。
ギャラリー35分ではじまった阿部淳写真展「黒白ノート」。
写真は阿部先生の暗室にお邪魔した時に撮らしてもらったものです。
モノクロの写真は阿部先生のものです。
僕の大好きな写真家阿部淳の写真展、
是非、すばらしいストリートスナップに触れてください。
僕はビックリしてばっかりです。
阿部淳 「黒白ノート」 / Abe Jun 「Kokubyaku note」
2024年3月20日(水)~4月27日(土) 16:00 – 22:00
定休日:日・月・火
*1ドリンクオーダー
<オープニングレセプション>
3月20日(水)18:00 – 21:00
[前期]
「黒白ノート 2」 2024年 3月20日(水)-4月2日 (土) 16:00~22:00
[後期]
「黒白ノート 3」 2024年 4月10日(水)-4月27日(土) 16:00~22:00
スタジオ35分
東京都中野区上高田5-47-8