うちの家では、まだ子どもにテレビゲームを買ってない。
子どもらは、買ってくれとうるさいが、
まだ買ってない。
「なんでダメなの?」
と半泣きで聞かれても、
ちゃんとした考えはない。
ちょっと前、
僕は、スマホのコップのゲームと、
ペンギンが増えるゲームにハマっていた。
おもちゃに左右の区別のために、
LとRって書いてあるのを見た長男が、
「ねぇ、ねぇ、ライフはどっち?」
と聞いてきた。
「それは、君がこれから自分で決めていったらいい」
て、言っといた。
夕方、明かりも点けない薄暗い部屋の中、
嫁さんは、ひとり洗濯物を畳んでいた。
何かボソボソ言っている。
気になって近づいてみると、
「千里の道も一歩から、千里の道も一歩から…」
と言いながら畳んでいた。
昨日、タケちゃんからLINEで、
恋が終わったと連絡が来た。
黄色のアボガドと黄緑のアボガドが、
マントをつけて飛んでる絵のスタンプと一緒に、
「まえに進みまス」
と書いてあった。
先週の撮影が最後で、
これから先、1つも仕事が入ってない。
これがコロナの所為なのか、
自分の所為なのか分からない。
僕の母は、「ミスみどり」だった。
「ミスみどり」は、うちの実家のブティック「いとや商店」があった大阪の安立町商店街の今はなきミスコンテスト。
母は事あるごとに「わて、「ミスみどり」やってんで」と自慢してたので、若い頃の母は、まあまあ美人やったんやと思って育ってきたけど、ある時見せてくれた「ミスみどり」時代の写真の母が、ぱつんぱつんに太っていて驚いた。
「ミスみどり太いやん」
と僕が母に言うと、
「何言うてんの、こん時、ソフト(ボール)やめて、盲腸の手術の後でよう食べて、ちょうど太っとったんやんか。日舞はやっとったけどな、それで日舞の先生に一人で踊りぃ言われて、わて一番ええ役で他の子らの前で一人で踊ったんやで」
と半分本気で怒りながら始まったよくわからない言い訳が、最後に他の自慢話に上手に着地していた。