Nから貰った仕事にいく。
Nは、僕より10ほど若いが、ロンドンの留学時からの友だちで、今は広告の制作会社で働いている。
やらしい話、広告の仕事の相場は、雑誌とかWEBの仕事とは桁が違うので、
「けんさん、めっちゃ安い仕事ですけどやりますか?」
とNは言ってくるが、僕にとっては全然安くない。
なので僕は、
「安くて誰もやりたがらないような仕事があったら、全部こっちに回してくれ」
とNに言ってある。
そうすると、メインの写真なり動画は、イケてるカメラマンが撮るけど、カット数が多くて、そのカメラマンの手が回らないようなサブカットを僕が撮るという仕事をくれる。
僕の捨てても捨てても、どこかに潜んでいるプライドが少しヒリヒリしたり、サブである気楽さに安住している自分に大丈夫か?とヒヤヒヤしたりもするが、嫁さん子どもを飢えさせてはいけないという言い訳を盾にしっかと前を向く。
朝、沢山のスタッフがみんな集まって挨拶し合っている。僕が、「動画の機材ってデカイな」とか呑気思ってるとNが、「けんさん、チャック開いてますよ」と言ってきた。チャックは、少し空いてたどころではなく全開だった。僕は焦って、「みんなの中にサッと入っていこうと思って」と言って返したが、その返しが上手くもなく、全く面白くなく、この状況をもっと痛々しい方に推し進めたことは、自分が一番わかっていた。
最初に躓いて、もう帰りたい気分になったけど、「チャック開いてて帰った45歳のおっさん」は、伝説になり得るので踏ん張る。
その後、一生懸命写真を撮ってたら、やっぱり写真を撮るのが好きやし、みんないい人やったし、もちろん帰らなくてよかった。