俺のイタリア

イタリアに行ったことのない男の日常

臭いとライター

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温泉地に出張に行った。

一緒に行った女性のライターの人が、

「私、臭いに敏感なんですよね。今日の旅館はギリギリセーフだったなぁ」

と言った。

鈍感な僕の鼻は、何も臭わなかった。

「温泉もカルキ臭かったでしょ?」というので、

僕は「はぁ」と、どっちとも取れる返事で濁した。

長い時間、車で一緒に取材先を回るので、急に自分の口臭とか体臭は大丈夫だったか気になり出した。

でも、臭いの話を自分から振ってくるぐらいだから、

僕は大丈夫だったんじゃないか。

仕事帰りに一人で車を運転していると、

左耳ががさごそしたので触ったら、

耳の出口にすっごくデカイ耳クソが出てた。

これはギリギリセーフかな。

 

 

 

台風一家

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昨夜は台風の影響で、いっときすごい勢いで雨が降った。

僕がその音で目が覚めると、嫁さんも起きてた。

暗い中、

「雨で亀の容器の水が溢れて、亀が逃げ出さないかな?」

と聞いてきた。

うちには、4年ほど飼っている亀がいる。

「あの容器大きいし、軒下やからそんなに雨に溜まらへんて」

と僕がいうと、

「亀に雨を当ててあげようと思って、雨の当たるとこに亀の容器を出しといたんだよね」と嫁さん。

いつまでも止まない雨音に観念したのか、

嫁さんは、のそのそと布団から這い出て、大雨の中、亀を見に外に出て行った。

なかなか嫁さんが帰ってこなかったので、

「ほんまに亀逃げたんか?」と思っていると扉が開いて、

「もうちょっと溜まってくれっていうぐらい水溜まってなかった」

と、嫁さんは嬉しそうに自分の布団に帰っていった。

 

ドラマツルギー

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三男と2人公園に行った。

公園の芝生の上で、父、母、息子の3人家族が野球をしていた。

三男が動かず、ずーとその野球を見ているので、

僕も仕方なく見ていた。

 

息子「お父さん、次はぼくがバッターだよ」

父「よし、ヒロキ投げるぞ」

カキーン!

母「うわーすごい!うまいわよヒロキ!」

息子「やったー!」

 

地方出身の僕は、標準語の家族の会話を聞くと、

TVドラマを見てるような気になる。

それで、その様子が、幸せそうであればあるほど、この先に、どんな不幸がこの家族を待っているのかと勝手な心配をして、僕は野球を見ていた。

 

おちょけ

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「あんた、いつも調子乗りすぎるから、いつかえらい目にあうで、殺されるかもしらんで」と朝から嫁さんは次男に怒っていた。僕が「調子乗りで殺されまではせんやろ」と言うと、「恨まれたりしてあるよ。あんたら」と嫁さん。「なんで俺まで一緒くたにすんねん」と僕が言うと、「私にはその要素は一切ないから」と台所で朝ごはんの支度をしながら、こっちも見ずに言った。

マドレーヌ2

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ガンちゃんが、おふくろの味は「マドレーヌ」だと言った。(7/2のブログに登場)

ガンちゃんのお父さんは、島根の漁港で働いていて、いいところの出のお母さんと結婚した。料理が好きじゃなかったお母さんは、お父さんが毎日持って帰ってくる魚を、いつも刺身にして子どもたちに食べさせていたところ、「子どもが毎日刺身か!ハンバーグとかあるやろ」と夫婦喧嘩になっていたそう。

そんなお母さんも、お菓子を作るのは好きだった。

「いつもおやつの時間には、かあちゃんが作ったマドレーヌでアフタヌーンティーみたいなことするんですよ。」

 

窓に掛かったレースのカーテン越しに、午後の光に照らされた日本海が見える。柱時計がボーンボーンと3時を告げると、奥から現れた上品な女性は、お盆に綺麗に焼きあがったマドレーヌとティーセットを乗せている。「あらあら、ガンちゃん今日はお友達も一緒なの?」隣を見ると白髪混じりの中年のガンちゃんが、いつの間にやら半ズボンを履いた子どもになっている。「やったー、かあちゃんのマドレーヌだ!」と子どものガンちゃんはキーキー声で興奮している。「ガンちゃん、お行儀がわるいですよ。」ガンちゃんのお母さんは、僕のカップになみなみと紅茶を注ぐと、受け皿に輪切りのレモンを添えてくれた。「お口にあったら良いんですけど」と手製のマドレーヌが二つ載ったお皿も。僕は縁の薄い、熱くなったカップに唇を当てる。口をマドレーヌでいっぱいにし、「な、うまいだろ?」と言わんばかりに、目を見開いてこっちを覗き込むガンちゃんは、人は子どもの頃にほとんど完成されているものだと教えてくれる。「今日はお仕事でこちらに?なんだかカメラマンなさってるんですって?」とお母さんは言った。「はい、それでいつもガンちゃんのところに寄らせてもらってるんです。」と僕が答えると、「良いわね、好きなことをお仕事になさって」と、お母さんはカップの細い取っ手を指先で持ち、やさしい笑顔を浮かべて言った。程なくして、玄関がガラガラッと開く音がしたので見てみると、白い長靴を履いたお父さんと思しき男の人が、手に立派なカレイを持って立っていた。

少林寺への道

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「どっか行きたいとこない?」と嫁さんは聞いてきた。

今まで貯めていた飛行機のマイルの期限が、翌日に切れてしまうのだ。

僕は「中国」と答えた。

前から少林寺のカンフーの写真が撮ってみたかったから。

嫁さんは、僕のために「羽田⇄北京」のチケットを取ってくれた。

でも、取った瞬間に自分が本当に行きたいのか分からなくなった。

僕の中のリトル健太郎に聞いてみると、「憂鬱」と答えた。

おかしい。僕はどちらかといえば、フットワークの軽い男だったはずだ。

旅行期間中に入った仕事も断った。

マイルも使った。

周りの人に少林寺行きを伝えた。

「カンフーです。えっ、僕変わってます?ただのアホなんです。」

と、ちょっと周りと違うという演出までした。

行くしかない。

 

渡航前日。

中国でのホテルやらなんやら(前日にやることか)を調べるために喫茶店へ行く道で携帯を落とした。

探し回った携帯は、その日の夕方に警察でバキバキに折れて見つかった。

チャンス。

「中国行きはキャンセルしたほうがいいかな?ほら携帯ないと連絡もつかへんと困るし」

と嫁さんに言い訳をして、キャンセルしてもらった。

気持ちがスッとした。

次の日、一人で熱海に行った。