トミーとマツ
僕はロンドンに留学する前の2、3ヶ月の間、大阪の南港にある洋服のメーカーの倉庫で働いていた。そこで、僕とコンビを組んでいたおっちゃんは、絵で描いたようなつり上がった眉毛を持っていた。また、おっちゃんは、すごく口が悪ったので女性の従業員から嫌われていた。
「岡山高島屋、3個口の1。」
おっちゃんは思いの外、高めの声で倉庫中に響くような大きな声を出す。
「はい。」と僕が答える。
「いきます。品番、0000−0000、0000ー000..」
紙に書かれた品番と段ボールの中の返品された商品が合っているかをチェックするのが主な仕事。
おっちゃんは女性従業員が横を通ると、
「○○さん、君はびっくりしたような顔してんな、えー、加瀬君そう思わんか」
と言って、僕の方を見てニターと笑った。
僕は、なんて答えたらいいかわからないでほっておくと、
「なんや加瀬君、え、この子タイプか、え、びっくりした様な顔しとんで」
とまた倉庫中に響くような声で言うから困った。
このおっちゃんには、仲のいいおっちゃんが一人いて、二人は昼ごはんもタバコ休憩もいつも一緒だった。
もう一人のおっちゃんは、逆にすごく女性からモテていた。
一度そのモテる方のおっちゃんとエレベーターで一緒になった時のこと。先にエレベーターを降りていく女性従業員の後ろ姿に向かって、「あの子、キレイなったな〜。」とモテるおっちゃんは、その子にギリギリ聞こえるぐらいにつぶやいて、ドアが閉まった。僕はそのテクニックに驚いて、モテるおっちゃんの方を見ると、こっちを見てニターと笑っていた。